白杉から金ケ崎へ向かって1番奥のアンモの谷へ。車はそこで行き止まり。湾口西岸の白杉は58世帯、船は約60隻。海との関わりが深く、金ケ崎周辺など舞鶴随一の漁場にも恵まれている。特に昔はナマコ漁が盛んで江戸時代に献上したことも。さらに昭和初期までは、ランプの燃料に使われていた桐の実(コロビ)と養蚕で、富豪の財を得たと言われる。その桐畑があった棚田の中に1つ、温泉伝承を伴う薬師堂が建っている。舞鶴湾を一望し、こんもり茂った所にある二間四方の堂は、裏のタモノ木が直撃して昭和37年に再建。堂内には、像高23センチの薬師如来像が安置されており、ここの水を持ち帰ると目と耳に御利益がある…が、併せて“たたり薬師さん”の異名でも名高い。縁起木札に「往昔、何時の程よりか(略)その威顕著にて、沖を航する舟は、帆柱を倒さざれば航海することを得ざりという」と。つまり、漁船が外海へ出る時、薬師さんに祟られ船をひっくり返されるので、この前では静かに帆を降ろし、用心して波高い日本海へ出ていった訳である。そして今も、海上安全を祀る薬師さんとして信仰され、毎年七夕の夕べに祭事が行われている。ここは、荒れる日本海への出入口。「気を引き締めよ!」と、海に挑む意気込みが伝わってくるようだ。“猿の尻笑い”ならず“猿も木から落ちる”ことのないように―。来年は「サル年」!
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