春告げ草は「梅」。中田から田井線を走る早春のドライブ―。大山峠を越えて旧道を100メートルほど入ると、広大な梅林が開けてくる。その道路脇に樹齢300年の巨大な椎ノ木があり、地元ではこれを「大山の大椎ノ木」と呼ぶ。そしてこんな伝承が…。田井の沖合にある毛島の絶壁には、鷹が生息している。田辺の殿様は鷹のひなを捕らえさせ、地元の庄屋に飼わせていた。ある時、鷹が逃げだしたため藩主は大変立腹して、2人の庄屋に打ち首を命じた。そして刑の場所をこの大椎の木と決めて、日時を指定したのである。執行の日、1人は土地の氏神様へお参りしてからここへ向かい、他の1人は「打ち首にされるのに今さら神様へ参ることもあるまい」と一足先に出掛けて処刑された。その直後、鷹が見つかり、遅れた庄屋は助かった…という伝説。ところで鷹は切り立った岩壁のほら穴に巣を作るが、そのひなをとる様子は「丹哥府志」に―頭巾をかぶり片手に籠、他方で合図用のわき綱を持ち、太い綱で体をくくって岩の上から降りていく。穴を見たら岩を蹴って宙に浮き、綱の反る勢いで穴の中に入り込んでひなを取る。岩の上の命綱は親子兄弟が引っ張る―と記されている。椎はブナ科、ドングリの木で常緑高木。ちなみにこの村の椎ノ木はこれ1本だけとの由、今も残る植物伝承の1つである。どうぞ大木と梅林見物にお立ち寄りを。
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