西地区の中心から西北に13キロ、“民話の宝庫”加佐の上漆原へ。山あいに沿って岩尾、鎌倉、長之室(ちょうのむろ)の順に地区が連なる45戸の集落である。この村には、古くから願いを良くきく地蔵さんが2体祀られている、と民話に…。
天正12年(1584)、田辺築城の折、上漆原にも16人の人夫を割り当てられたが家数少なく人数揃わず。その時、長之室の円性(えんせい)と岩尾の長左エ門の怪力の2人が村の代表にと申し出た。当日2人は16人分の割り当てを楽々とこなし、役人は「両名の働きは見事だ」と褒めて早々に帰したという。
村では2人を歓迎し、お礼に四国見物をしてもらう事に。ところが「2人だけではもったいない」と元辻堂の13.8キロと天然寺の11.1キロの地蔵さんも一緒に背負って旅立ったのである。道中、風呂にも地蔵さんを先に入れて洗い、同じ布団で眠っての88カ所巡り…地蔵さんはニコニコ顔で喜ばれ、村へ帰ってからも願いを聞き入れて下さった―とさ。
お話は更に続く。昭和58年2月、信仰深い地区の13人が、400年前の昔話を再現しようと地蔵さん(文化財調査中のため同型の地蔵さんで)をしょい子で背負い、2週間かけて霊場巡りへ。道後温泉にも入り「地蔵さんにも旅の先々で身体を癒してもらいました」と、あの時の四国参りを懐かしむ古老の話は尽きない。
地蔵さんは今も1体は天然寺に、1体は長之室の道端に祀られている。「純な心」が織りなす民話。ここでは“原風景”そのままを民話の世界へ導いてくれる…。
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