アイゴは別名バリとも呼ばれる。舞鶴ではややマイナーだが、南日本では釣りの対象として人気のある魚だ。沖縄では、春先に生まれたアイゴの類の稚魚が、初夏の大潮の頃、大群をなしてサンゴ礁のリーフ内へ入ってくる。これをすくって塩漬けにした「スクガラス」を豆腐の上に載せた沖縄料理は特に有名だ。
昨年の夏は、舞鶴周辺でもアイゴをよく見かけた。黄金色の稚魚が藻場で群れをなす様は、「きらきら」という言葉の似合う華やかな光景だ。いつも何かしら餌を探しているようで、潜るたびに大きくなっているのには驚かされた。アジやカワハギと並んで、このアイゴもクラゲを食らう魚だ。そして年明けて1月17日に出遭った写真の個体は、体長16センチほどに成長していた。体色も海底の泥をまとったような暗褐色へとすっかり衣替えしている。
背中のひれをぴんと立てたアイゴの声に耳を澄ませば、「触ると痛い目にあうわよ」と聞こえてきそうだ。前回のオニオコゼほどではないにしろ、背びれのとげには毒があり、刺されると結構しびれる。筆者は学生時代、夜間潜水中にこの魚をつかんで刺されたことがある。そんな愚かなダイバーはそうはいないとは思うが、それでもアジ釣りの最中に釣り上げたら要注意だ。
さて,今回のアイゴを含めて、本シリーズでは毒のある生き物がやたらと登場している。その心は、「海の中には危険がいっぱい」という筆者からのメッセージ、というわけではなく、単に毒のある魚はあまり逃げないから写真が撮りやすく、かつ話題に事欠かない,という現実的な理由によるものだ。がしかし、舞鶴湾に時折迷入するというイルカや、沖を高速で泳ぐバショウカジキなどもいつかはファインダーに収めたいとの野望を抱いてはいる。あまり期待せずに本シリーズを御見守り頂きたい。
写真=体長16センチのアイゴ。撮影地は長浜、水深9メートル
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