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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩100
−「ナシジイソギンチャク」− 泳ぐ姿はクラゲ似

 梅雨明けのよく晴れた日に、冠島と沓島の間にある中津神(なかつかみ)という磯の周辺で潜った.岩礁にいる魚のデータをとりながらも、深い藍色の彼方からまだ見ぬ巨大魚が現れはしないかと期待しての潜水である。そんな折、中層を舞うクラゲの姿が目に入り、撮影する(写真1)。  同じ日の午後、さらに沖のトドグリというポイントでも潜る。その際、ガイドの圭介さんの指差す見慣れぬ姿のイソギンチャクを撮影した(写真2)。圭介さんによれば、「以前は深場のヤギ(サンゴの一種)に付いとったんが、最近は浅いとこにもようけおる」とのこと。  さて翌日、魚のデータを整理した後、この2つの生き物の名前を調べにかかった.まずクラゲの方を図鑑で調べてみたところ,それらしきものは出ていない。そもそも撮影した写真をよく見れば、これはクラゲではなくイソギンチャクの形をしているが、どうにもわからず放置する。  続いて、最近増えてきたというイソギンチャクについて調べる。手元の『イソギンチャクガイドブック』(そんな本があるんです!)によれば、ナシジイソギンチャクという種類のようだ。梨に似た地肌を持つこのイソギンチャクは、ヤギ類に密集して増え、ヤギを倒すとそこを離れて泳ぎだすとのこと。それを知って写真1を眺めれば、これはナシジイソギンチャクの裏返って泳ぐ姿ではないか。  イソギンチャクはふつう磯に固着し、巾着袋の形をしているからその名があるし、人の後ろに付いて歩く者は腰巾着と呼ばれる。ならば、ヤギに付いているのはヤギンチャクで、それが泳げばオヨギンチャク?  今回の水中散歩は掲載からちょうど100回記念となるため、それにふさわしい大物を狙って潜ってきた。大物に出会えなかったから言うわけではないが、魚の大きさに限りはあっても、海の不思議に限りはない。
写真1=2010年7月、中津神の水深15メートルで見つけた、クラゲのような生物
写真2=アカヤギに付着したナシジイソギンチャク。このイソギンチャクの泳ぐ姿が、実は写真1である。2010年7月、トドグリの水深20メートルにて

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