ハワイへ研修に行くという京都市内の高校で、ハワイに関する講演を依頼されたことがある。その際、ただハワイの魚の話ばかりするのも芸がないので、ハワイの魚を若狭湾の魚と比べてみることにした。ハワイで見られる色鮮やかな魚には、形はそっくりながら色彩的には地味な近縁の魚が、たいてい若狭湾にいるものだ。そんな中、ハワイで普通に見られる魚とまったく同種の魚が若狭湾でもよく見られるという、おそらく唯一の例がこのノトイスズミである。
ノトイスズミは、夏場の冠島や丹後半島のごく浅い磯でシュノーケリングをしていてしばしば見かける。本来は暖かい海の魚で、体長60センチほどにもなり、磯釣りの対象として人気が高い。写真の個体はまだ若魚で、稚魚の頃、流れ藻などに寄りついていたものが来遊して居ついたのだろう。ちなみにハワイでは、オアフ島のハナウマ湾というポイントに大きなノトイスズミがうじゃうじゃいる。ハナウマ湾はいっさいの漁獲や釣りが禁じられたいわゆるネイチャーリザーブなので、魚たちは人間を怖がらない。色とりどりの魚たちが舞う中、比較的地味で、かつ大きいため、かえって存在感のある魚だ。
ノトイスズミは、以前はイスズミと同種と思われていた。能登半島で集められたサンプルをもとに、坂井恵一氏が新種として報告したのがノトイスズミである。イスズミよりも口がすぼまり、色彩は茶色っぽいということだが、識別は難しい。イスズミ類にはこのほか、島の周辺に多いミナミイスズミという種類もいる。いずれの魚種も、丈夫な歯で海藻をはぎとって餌にしている。
海にいるイスズミ類や川魚のフナ類を、英語ではchubと総称する。この単語から派生した語にchubbyという単語があり、「ぽっちゃりした」という意味で日常的によく使う。英語圏ではぽっちゃり系の人をイスズミ系あるいはフナ系と感じるのだろうか。そんな風に考えると、太めの欧米人にも妙に親しみが沸くから不思議だ。
写真=冠島宮前の水深1メートルで泳ぐ体長20センチほどのノトイスズミ。3尾が群れになっており、時折メジナの群れにも混じった。2010年8月に撮影
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