エビクラゲは,傘の直径が30センチにもなる大型のクラゲで、ゆですぎたブロッコリーに似た足を持つ薄紫色の姿は、正直なところあまりいただけない。クラゲモエビという小さなエビがしばしば共生しているためこの名がある。 3年ほど前から舞鶴湾でこのクラゲを見るようになり、以後時々出会う個体には、去年までは必ずエビが隠れていた。ところが今年のエビクラゲには、なぜかエビがついていない。
エビクラゲ自体は、今年の舞鶴湾で非常に多い。冠島で潜水ガイドをしている圭介さんとの会話で気づいたことだが、このクラゲ、舞鶴湾の外にはほとんどいないようだ。そもそも若狭湾で見られるクラゲには、沿岸で生まれるミズクラゲやアカクラゲと、対馬海流で運ばれてくる南方系の様々なクラゲがいる。いかにも南方系な雰囲気のエビクラゲは当然後者だと思っていたが、ひょっとしたら最近は舞鶴湾内で生まれて増えているのかもしれない。だとしたら、共生エビの寄りつく間がなかったということも納得がいく。
話はやや飛ぶが、エビとクラゲはただならぬ縁にあるようだ。というのは、イセエビ類の幼生はしばしばクラゲに乗って回遊し、クラゲを食べて成長するという知見があるからだ。想像力を働かせるならば、クラゲに共生していた小エビの中から、回遊した先で大きく成長するような突然変異の現れたのが、イセエビの祖先だったのかもしれない。
クラゲ大発生の引き金になると言われているのが、埠頭や桟橋などの構造物である。クラゲにはポリプとして岩や貝殻、壁面などにへばりつく時期があり、その際、カニやウミウシなどの天敵に食べられやすい。ところが、新しい護岸にはポリプを捕食する生物がほとんどいないため、ポリプの付着基盤としては理想的なのだそうだ。エビとクラゲに限らず、思いも寄らないことが自然界では(そして多分、人間社会でも)つながりと調和を保っている。そんなつながりを不用意に断ち切ったときに、大自然の逆襲が始まる。
写真=舞鶴市長浜沖の水深1.5メートルにいたエビクラゲ。2010年10月撮影
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