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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩105
−ツグチガイ− かわいい触角ウサギ似?

 ツグチガイは、1センチそこそこの小さな貝である。ヤギと呼ばれるサンゴの仲間にはりついて、いつも同じ所にいる。冠島周辺にはツグチガイの住む場所が数カ所あり、ダイビングショップのガイドさんに頼めば、ちゃんとそこへ連れて行ってくれる。普段、貝殻は赤い色の膜に包まれており、ヤギの上をはい回っているが、指先でそっとつつくと膜は殻の中に引っ込み、白または茶色の美しい殻が現れる。殻や膜の色は、住んでいるヤギの色に合わせて少しずつ異なる。  ツグチガイは、ウミウサギガイ科というグループに属する。そう思って観ると、動き回るモードのときには、ウサギの耳ほどではないが、触角が前に出ていて、なかなか愛らしい。  ツグチガイについて思いつくことはこれ以上ないので、ウサギについて語ろう。スペイン領のカナリア諸島へ出張したとき、昼食にウサギが出てきた。ヨーロッパではウサギはごちそうの部類と聞いていたので、ありがたく頂いた.食用ガエルに似た味だった。と言ってわかりにくければ、鶏肉をしっかりさせた感じとでも表現すればよいか。  ウサギを食う話としてもう1つ。スタインベックの『怒りの葡萄』では、主人公が野ウサギを焼いて食べるシーンがある。「まともな肉を食うのは久しぶりだ」とウサギ肉にかぶりつく主人公の描写が見事にリアルで、これを読めば誰でもウサギが食べたくなる。それはともかくこの小説、70年も前に書かれた本ながら、大地を疲弊させるアメリカ式の大規模農業と、農家からとことん収奪する社会の構造、そしてそれにくじけない民衆の強さなどについて考えさせられた。  本稿執筆時、ちょうど満月である。満月を人の顔に見立てる欧米人と異なり、餅つきをしているウサギの姿が筆者には見える。舞鶴湾に映る金色の月ほどの研究は無理でも、月のウサギがつく臼の中の餅くらいに、いつかどこかで誰かの役に立つかもしれない仕事をしてゆきたいと思う。
写真=ツグチガイの動き回るモード(写真左)と静止モード(写真右)。いずれも舞鶴市冠島のトドグリというポイントにて、2010年 8月に撮影。
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