雪渓に春の足音がこだまする2月のある日、いつものようにテニスクラブへ行くと、オーナーの寺内先生が開口一番「今日は粘ったんやけどなぁ」。テニスではなく、釣りのことだとすぐわかる.開けて見せてくれるクーラーボックスには、60センチ級のメダイを筆頭に雑多な魚が入っている。とても1人で持ち上がる重さではない。その日の釣果から、ウスメバルを山盛り頂いた。
メバルは春を告げる魚ということになっている。とはいえ、この仲間の魚は若狭湾でほぼ1年中見られる。比較的浅いところには普通のメバルが多いのに対し、沖合で釣れるのはウスメバルが大半である。ウスメバルは、薄いオレンジの体側に世界地図のような茶色の模様が5本入るのが特徴である。舞鶴の鮮魚店では、斑点がばらばらとある普通のメバルとこのウスメバルが同じ位の頻度で並び、大概は区別なくメバルとして売られている。
実験所の前に沈めた木製魚礁には、体長5センチ前後のメバル類の稚魚がよく寄りついており、その中にはウスメバルも混じる。普通のメバルは浅い所に留まって成熟するのに対し、ウスメバルは成長するにつれて沖へと移動する。
メバル類の繊細な味を楽しむには、やはり煮付けが良かろう。ちまちまと身をつつき、頭の骨まで崩して食べ進むと、目の後ろ辺りに箸先でようやくつまめる大きさの白くて平べったい石が見つかる.魚の平衡感覚を司る耳石である.灯りにかざして見れば、耳石には木の切り株のような年輪があって、これを数えることで魚の年齢がわかる。
ウスメバルは揚げてもすこぶる旨い。背中側から中骨にかかるまでざっくりと切り込みを入れ、片栗粉をはたき油でじっくり揚げれば、頭からしっぽまで余す所なく頂ける。余分に揚げて、南蛮酢に漬ければ、3日は楽しめる。
寺内先生に頂いたウスメバルは全部で16匹あった。調理しきれない分は凍らせて、フキノトウが出るのを待ち、「メバルと春野菜のスープ」を作ろう。
写真=体長6センチほどのウスメバル。2003年9月に舞鶴市長浜の水深7メートルで撮影。
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