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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩108
−ウミサボテン− 海底からにょっきり

 砂地の海底からにょっきりと生えるウミサボテンの姿はかなり異様である。見る人の興味と欲求と社会的背景によって、これをたくあんと見る人もいれば、ちょっと毛深い女性の足に見立てる人もいるだろう。ウミタクアンやウミニョソク、あるいはもっと恥ずかしい名前も考えられたであろうところ、ウミサボテンと命名した先人のニュートラルな感性に、とりあえず拍手を送りたい。  ウミサボテンは、形は陸上植物のサボテンに似ているが、実際にはクラゲやサンゴやイソギンチャクに近い刺胞動物の一員である。学生時代、清水の三保で夜間に潜水した折、海底から生えたこの不思議な生物に驚かされ、触れると妖しい光を放つのにときめいた。その後、瀬戸内海でも見かけたが、若狭湾で見た記憶があまりない。ところが最近、瀬崎で潜水中に、そこここからウミサボテンの出ている場面に遭遇した。  イソギンチャクの親類と思って観ると、ウミサボテンの表面に飛び出ているのはとげではなく、イソギンチャクの子供のようなポリプであるのに気づく。ポリプはそれぞれが独立した個体で、各々が8本の触手を持ち、流れて来るプランクトンをとらえて食べ、共有地である幹の部分に栄養を送る。  ウミサボテンは、本来は夜行性であり、昼間は砂に潜っていて、夜ごとに砂中から出てきて餌を食べる。しかし今回見たのは昼間である。春先の若狭湾には雪融け水による濁りがあって、昼でも暗いから安心して顔を出すのだろうか。また、この日は時化の後で海底のうねりがきつく、ウミサボテンも揺れていた。固着生活を送る生物にとって、流れがあるときは摂餌のチャンスとなるのだろう。一方、ウミサボテンをつついて食べそうなカワハギなどの魚の活動は、水温13度以下では極端に鈍る。この日、瀬崎の海底水温は10・6度。魚たちにちょっかいを出される心配もなく、安心して妖しい姿態を砂上に現していたのだろう。
写真=舞鶴市瀬崎の水深15メートルで見つけたウミサボテン。高さは50センチほどある。2011年3月撮影。
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