大学3回生の頃、下宿でタコを飼っていた。6月(英語でJune)の海で捕まえたので、ジュンコと名付けた。体長15センチほどのマダコであったと思う。とてもよく慣れて、筆者の手から餌を取っては旺盛に食べたものだ。アサリを抱え込んでは、吸盤を殻に吸い付けて、「いちにのさん」という調子で無理矢理に開けてしまう様には驚かされた。しかしある晩、ジュンコは水槽から脱走を謀り、行方不明になってしまった。
さて、写真のタコはイイダコで、砂の下や貝殻の中にかくれていることが多い。水槽で飼ってみると、やはり普段は砂に潜っていて、アサリを与えると器用に開け、活きたカニを簡単に仕留める。
写真の中央やや上にあるのが本物の眼で、それよりも下の丸い模様は、ニセの目玉だ。動物にとって、目玉を攻撃されたら致命的だ。そこで、体の比較的どうでもよい場所に目玉模様をつけておき、敵の攻撃目標をくらます。いろんな動物がとっている戦略だ。また、イイダコが穴に隠れているときに、魚がこの目玉模様を見つけたら、「きっと巨大なタコにちがいない」と思って逃げていくかもしれない。こういうのを、生物学の用語で攻撃擬態と呼ぶ。
タコはスミを吐いたり吸い付いたりするだけでなく、咬むこともできる。タコに咬まれると,結構腫れるらしい。滅多にないことだけに避けたいアクシデントの一つだ。タコにキスマークをつけられて寝込んだなんて、しゃれにもなりやしない。
タコは、無脊椎動物の中で最も頭がよい生き物であると言われる。いろんな芸を覚えるし、脳も比較的大きい。成長も速くて憶えもよいが、1年しか生きられないので、芸を仕込んでもちょっと寂しい思いをする。
写真=体長15センチのイイダコ。撮影地は長浜、水深3メートル
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