水中で初めてゾウクラゲに遭遇した際、その名前をすぐに思い出した。ゾウの鼻のような突起が頭部に伸び、その根元にはご丁寧に目玉もある。ただし、ゾウクラゲが何の仲間であったか、すぐには思い出せない。
「ゾウクラゲはゾウに近いかクラゲに近いか」と訊けば、ほとんどの人は「クラゲに決まっている」と答えるだろう。ところがどっこい、ゾウの方がむしろ近縁とも言える。多細胞動物には、不定形あるいは放射状を基本とする原始的なものと、左右相称の体を持つより高等なものがいて、クラゲは前者、ゾウおよびゾウクラゲは後者になるからだ。
ゾウクラゲの存在について知ったのは、子供の頃に愛読した小学館『魚貝の図鑑』を通してである。図鑑に描かれたイラストを見て、「海の中には不思議な生き物がいるものだ」と夢を膨らませた。あらためてこの図鑑をひもとくと、「くらげのように見えるが巻貝のなかまである」と書かれている。ゾウクラゲの類には数種がいて、痕跡的な殻を持つものもあるが、写真の種類はハダカゾウクラゲといって、浮遊生活に適応するため殻は消失している。
雑多なクラゲ類に混じったゾウクラゲを見つけた五月の満月大潮にあたるその日、海底ではナマコが放卵放精を行っていた。普段は海底に横たわるナマコたちが、その日はすっくと立ち上がり、そそり立った先端部分を左右に振りながら白い液を海中に散らしている。日頃は地味なナマコたちの、ここ一番の頑張りに、水深18メートルの海底で深い感銘を受けた。ナマコについては本コーナーで何度か書いているし、そもそもこの日のナマコの振る舞いは少々スキャンダラスで市民新聞の紙面にはふさわしくないように思われる。特に興味をお持ちの方は、舞鶴水産実験所ホームページの「舞鶴市ナマコプロジェクト」欄に掲載しているので、ご覧いただきたい。
写真=2011年5月17日の昼過ぎ、福井県高浜町音海の今戸鼻の西、大鍋というポイントの水深3メートル付近で見つけたハダカゾウクラゲ。体長は12センチほど。鼻のように見えるのは口先が伸びたもので、その付け根の白い点が眼(水中では黒く見えた)。
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