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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩114
−イシガキダイ− サンゴにとけ込む模様

 イシガキダイは、城の石垣にも似た模様を持つ。縞模様でおなじみのイシダイと形はそっくりである。石垣状の模様は成長するにつれて細かくなり、体長50センチを越えると、いぶし銀色の体に口先だけ白い色となる。この時期のイシガキダイをクチジロと称する。  イシガキダイはイシダイよりも南方系の魚である。両魚種が同程度に漁獲される長崎県の対馬では、イシガキダイの方が高級とされる。食べ比べてみると、確かにイシガキダイの方がおいしい。舞鶴の鮮魚店でも時々この魚が売られており、煮付けにして旨い。  イシダイの縞模様は、海藻の繁茂した磯でカモフラージュの役割を果たすと考えられる。それではイシガキダイの模様は何のためか。本種は、海藻の茂る磯よりも、サンゴとゴロタ石の混じる亜熱帯の景観にうまくとけ込む。成長につれて砂まじりの深い海底へと移動するため、石垣模様も不要となるのだろう。  イシダイとイシガキダイは近縁種なので、簡単に交配ができる。そこに目をつけたのが、水産分野で先駆的な近畿地方の某私立大学で、早くも1970年に両種の交配雑種を作り、養殖用の稚魚として売り出した。その名も、「キンダイ」。異なる魚を交配すると成長が良く病気にも強いが、これらは通常、子孫を残せない。遺伝学ではこうした雑種をF1と呼んでいる。  陸上の農業では、F1雑種から育てた野菜が市場の大半を占めるそうだ。農家が毎年種苗を買ってくれるため、たねや苗を売る企業には大変都合が良いが、F1雑種は自然の理に即しておらず、人の心と体を弱めるのではないかといった指摘が、塩見直紀氏の『半農半Xという生き方』という本で指摘されている.魚についても同様な気がする。かといって、狩猟採集の「半人半魚な生き方」に戻る贅沢は現在の筆者には許されない。舞鶴産の玄米を炊き、地物の魚を調理し、プランターで育てたハーブを沿えるくらいが、今できる精一杯か。
写真=体長13センチほどのイシガキダイ。冠島の北、チョウベイグリの水深12メートルで、2011年9月に撮影。
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