オニカサゴは、いつもどっしりと海底にいて、ごつごつした体表面と迷彩色とで巧みに背景にとけ込む。頭部のとげは正面から見ると角のようで、その名の通り、ちょっとコミカルな鬼の趣きがある。ひれのとげには毒があり、刺されると痛む。
「醜い魚は旨いもの」などと言ったら、この魚、鬼の形相で怒るかもしれない.実のところ、水中ではしばしば出会う魚なのに、残念ながらまだこの魚と食卓でお目にかかったことがない。買って料理しようにも、鮮魚店で売られているのをなかなか見ないためだ。漁獲されたものは、筆者の行かないような高級料亭へ売られてしまうのだろうか。
最近、近所の保育所で講演をした折に園児から、「なぜ毒のある魚とない魚がいるのですか」という質問を受けた。フグやハオコゼには毒があって、アジやタイに毒はない。泳ぎの速い魚は、敵に食べられそうになったら泳いで逃げればよいけれど、泳ぎの遅い魚は、身を守るために毒を持つことが多いと説明した。本種を見ていると、毒とげを持つからこそ安心して岩の上に鎮座している感が伝わってくる。
ところでここ数年、年末の本記事では、翌年の干支にちなんだ魚について書いている。来年は辰年だが、タツノオトシゴは2002年の晩秋にネタとして使ってしまった。当時は連載を10年も続けられるとは思っていなかったし、そもそも干支のことなど考えてすらいなかった。来年はもっと余裕と展望を持って仕事をし、2024年の辰年に備えて、タツナミガイの写真でも撮っておこう、などと言っていたら、鬼が笑い過ぎて卒倒するか。ともあれ、日本の海とそこで働く人々と、それらに関心を示してくださる読者の皆様にとって、来年が幸多き年となることを願うばかりである。
写真=2011年5月、高浜町音海の水深4メートルで見つけたオニカサゴ。体長25センチ。
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