ウツボは南日本の太平洋岸で普通に見られる魚である。若狭湾では稀であり、筆者は当地での過去12年間の潜水中に1度しか本種に出会ったことがない。ウツボはウナギやアナゴと同じウナギ目という分類群に含まれる。ウナギ目の魚は南の海を起源とする魚が大半であり、冬に水温の下がる若狭湾でウツボをあまり見ないのも納得が行く。
ウツボは獰猛な捕食者である。筆者が大学4年生の頃、静岡県清水の海で、卒業研究の材料のサクラダイという魚を潜って採集していた折、網でからめとったサクラダイを穴から出てきたウツボに横取りされたことがある。
魚を獲られるくらいならまだ良い方で、長崎県の離島でダイビングのガイドをする知人は、グローブの上からウツボにかまれてざっくり切られたという傷跡を見せてくれた。ウツボはしばしばオトヒメエビという綺麗なエビと共生していて、エビに寄生虫をとってもらうかわりに、エビを敵から守る。ガイドさんはエビの写真を撮りたいお客さんのために手を伸ばしてエビを誘導したところ、「俺のエビちゃんに何すんねん」とサカナ語で啖呵を切ったと思われるウツボに噛みつかれたのだそうだ。このガイドさんに同情はするものの、ウツボの男気に軍配を上げたい。
この夏、ウツボが脚光を浴びている。同じウナギ目であるニホンウナギの稚魚が激減したため、養殖ウナギの値が高騰していることから、遠い親戚筋にあたるウツボを、ウナギの代用として土用の時季に売り出す動きがあるとのこと。ウツボの身になれば、ウツボとして食して欲しいだろうに、迷惑な話である。
和歌山や高知を訪れた際、ウツボ料理はメニューにあれば必ず注文する一品である。甘辛く味つけた料理が冷えたビールによく合う。
写真=2006年8月22日、宮津市島陰の水深4メートルで見つけた体長25センチほどのウツボの未成魚。
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