学生時代から、タコにまつわる思い出は多い。海で大きなタコにちょっかいを出したら吸い付かれ、腕から首にかけて吸盤の跡が青あざとなり、誤解を招くような見た目になったこと。バーベキューのときにタコの足を生のまま炭火で焼いたら、堅くて噛み切れなかったこと。
そんな中、比較的最近の経験として、小学生にタコの解剖を指導する機会があった。知人から「孫娘が夏休みの宿題にタコの解剖をしたいと言うんですが、指導してもらえませんか」との依頼を受けたのだ。
当日、大きなマダコを持参して、そのお嬢さんがお母さんとおばあさんに伴われてやってきた。こちらもタコの体について詳しいわけではないので、出たとこ勝負で一緒に考える。エラ、腸、心臓、肝臓と臓器がいずれも小さく、成熟に向かって内臓が退縮しているものと推測する。そんな中、ひときわ生気に満ちた白い臓器が現れた.これは見当もつかないだろうと思い、「精子嚢(のう)といってね、精子の入った袋なんだよ」と説明したが、ここでお母さんとおばあさんがあわてて割って入り、筆者が不要に踏み込んだ発言をせぬよう仕切ってくれた。
ちなみにタコは、雄が雌に精子嚢を手渡し、受け取った雌の体内で受精が行われる。そして産まれた卵を雌が保護しているのがご覧の写真である。タコの卵は、海中の岩棚から藤の花のようにぶら下がるため、「海藤花(かいとうげ)」の別名がある。卵に十分な酸素が行き渡るよう、母ダコは1ヶ月にもわたり水を送り続け、稚ダコを送り出した後、息絶える。写真でも、眼の下のろうとが大きくふくらみ、海水を吹き付けているのがわかる。それに疲れてか、タコの血色はやや悪い。
さて、タコの解剖を経験した小学生。そんなタコの生き様にロマンを感じるお年頃になったら、また水産実験所を訪ねてくれれば良いものだ。
写真=2012年9月12日、冠島北のチョウベイグリ、水深10メートルにて、卵を保護するマダコ。
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