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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩129
−ヘビギンポ− 守る卵 食料にも

 ヘビギンポは成熟しても体長5センチほどの小さな魚である。日本各地の浅い岩場で、ごく普通に見られる。この魚、通常はピンクがかった白地に褐色の縞が横切る模様で、ヘビと呼ぶにはかわいすぎる。繁殖期の雄では、体色は黒くなり、くっきりした白い帯が2本現れる.  雄は繁殖期にハンカチほどの広さのなわばりを持ち、雌がそこを訪れて卵を産む。雌は産みっぱなしでその場を去るため、雄が卵を保護する。卵を狙う捕食者がいれば、雄は自分の体の倍以上の大きさの魚にも挑み卵を死守する。ここまでは、「偉いぞ、雄のヘビギンポ」と思うのだが、まだ続きがある。なわばり内の卵を守る間、雄は餌を探しに行くことができない。そこで、あまりにも空腹になると、雄は自分の保護していた卵を食べてしまう。そもそもなわばり内には複数の雌が卵を産みつけるため、余分がある。卵は子孫であると同時に食料ともなるのだ。  鳥類やほ乳類では、雌が子の保護をするものが多いが、魚類では逆に、雄が卵を守るのが主流だ。これは、受精様式の違いから来ると考えられている。すなわち、体内受精の動物では、雄は交尾したあとで育児の責任を雌に押し付けて立ち去ることができるのに対し、体外受精の魚では、雌の産んだ卵に雄が精子をかける必要があり、その間に雌が逃げてしまうことが可能だからだ。  結局のところ動物は、いかに多くの遺伝子を残すかという本能に基づいて行動している。こうした本能のしばりを越えて、遺伝子以外に残すべきもの、すなわち文化を持ったところに、ヒトのヒトたるゆえんがあろう。自ら省みて、残すべきものはまだまだ足りない。巳年を迎えるにあたり、ヘビのしぶとさで研究を続け、残すに足る仕事をしたい。
写真=雌(左)と雄(右)のヘビギンポ。撮影はそれぞれ、舞鶴市瀬崎(2006年3月11日)と越前町軍艦岩(2003年10月11日)。いずれも水深3〜4メートル。
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