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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩13
−「コウイカ」−
イカ墨インクはセピア色の語源

春ののどかな海には、コウイカののんびりとした姿がよく似合う。目を閉じているように見えるのはしかし、眠っているわけではなく、強すぎる陽差しを避けているだけだ。  コウイカは学名をセピアという。いわゆる「セピア色」は、コウイカの墨で作ったインクに由来する。イカ墨のインクは時間がたつにつれて薄茶色くなる。この色がセピア色の語源だ。  コウイカを水槽で飼うとなれば、名前は迷わず学名そのままで「セピア」と呼ぶだろう。であるが残念なことに、コウイカに限らずイカの類は見た目ほど手なずけるのが容易ではない。まず大きいコウイカを家庭用の水槽に入れたら、海水とフィルターが墨で真っ黒になり、最後は自分で汚した水槽の壁に激突して死んでしまうだろう。小さいコウイカは実に可憐だけれど、同居している他の魚たちの格好の獲物だ。タコの墨が一時的な煙幕として機能するのに対し、イカの墨は替え玉だ。すなわち、コウイカは敵に出会うと、自分と同じくらいの大きさの墨の塊を吐いて、敵がそれをイカと勘違いしている隙に自分はとっとと逃げる。でもそんな戦術は、広い海では有効でも、狭い水槽の中では通用しない。そんなわけで、コウイカは海の中で眺めて楽しむか、もしくは食ってしまうのが一番だ。コウイカは、釣ってすぐよりも1日くらい寝かしたほうがうまみが出る。アミノ酸の成分が変わるからだ。  このイカを撮影した直後、1メートルほど離れたところにひとまわり大きいコウイカを見つけた。春の若狭湾ではしばしば、つがいと思われるコウイカを見かける。イカの恋路を邪魔してしまったようで、妙な後ろめたさを感じた。
写真=体長15センチのコウイカ。撮影地は長浜、水深4メートル
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