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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩135
−ヒトエカンザシ− 食欲そそり、エサを招く

 前回、ケヤリムシについて紹介した流れを汲んで、今回はヒトエカンザシという、やはりゴカイの仲間の動物に登場してもらおう。ゴカイの類なので、管の奥には少々見苦しい姿の胴体が隠れているが、水中に開いているのは、細かな花弁のごときえらである。ネーミングもふるっている。「かんざし」というのは、子ギツネが山の中でもみじを代用にして飾る、アレだろう。ぐるりと一巡した形なので、「ひとえ」と称される。
 この仲間で有名なのはイバラカンザシという動物で、青や赤、黄色をした小さなモミの木のようなえらが岩から飛び出していて、すこぶる可憐である。ただし、暖かい海に住む生物なので、若狭湾では見かけない。同じカンザシゴカイ科ではあるが、ヒトエカンザシは紅色の個体がほとんどのようだ。
 前回に引き続き、どうしてこんなに鮮やかな必要があるのか、いよいよ疑問に思い、魚目線で考えてみた。赤い色というのは、ハンバーガーチェーンの看板で使われることからもわかる通り、動物にとって食欲をそそる色だ。これを見た魚は、きっと旨いものであろうと思って近づく。よくわからんが、食ってから考えよう、とかじりつくと、赤いヒラヒラはすでに管の中に隠れている。その勢いで魚はフンをする。魚のフンは動物プランクトンの餌となるため、魚が立ち去った後、集まってきたプランクトンを、このヒトエカンザシは捕えて食うのではなかろうか。
 コンクリートで護岸してしまうと生物も付着しにくいが、天然の岩さえ残っていれば、こんな生物が付着する。それを目当てに魚も集まり、といった命の循環がつながるチャンスも残される。
写真=2013年6月18日、高浜町音海の内浦湾内、水深4メートルの岩に付着していたヒトエカンザシ。(左写真)花弁状のえらが開いた直径は、1・5センチほど。(右写真)えらが引っ込むと、管だけが残る。
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