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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩136
−ウミタナゴ− 体内受精で稚魚を産む

 6年ほど前のこと、岩手県の大船渡を訪れた際,居酒屋でウミタナゴのたたきを頂いた。これより前、舞鶴湾内で調査中に獲れたウミタナゴを、煮たり焼いたり刺身にしたりして食べて、いまひとつな魚と思っていたところ、三陸のそれは筆者のウミタナゴ観を覆す、意外なおいしさだった。三陸地方では、民宿の夕食でも、しばしばこの魚が焼き物として供される。同じ魚の味が地方によって異なるのは、よくあることだ。
 ウミタナゴは胎生の魚である。たいていの魚は万単位の卵を産み、体外で受精するのに対し、この魚は晩秋に雌雄が交尾して雌の体内で受精し、初夏に至って初めて、体長4センチばかりの稚魚を13尾前後出産する。子を産む魚ということで、太平洋側では喜ばれるが、日本海側では「逆子を産む」として、特に妊婦には食べさせぬ習慣らしい。
 ウミタナゴは臆病な魚で、水中では接近しにくく、また水槽で飼うとなかなか餌を食べない。しかし冠島で見た巨大なウミタナゴは、ダイバーをあまり警戒せず、黙々と海藻をはんでいた。この魚、海藻そのものではなく、その表面の小動物を食べる。若狭と三陸でウミタナゴの味が異なるとしたら、これらの餌と水温との微妙な組み合わせが違うことによるものであろうか。
 冠島で写真のウミタナゴを見た翌々日、気仙沼で潜水調査を行った。津波で海藻も魚も一掃された当地の海であるが、今はホンダワラ類が繁茂し、ウミタナゴも多い。食べごろの15センチサイズを筆頭に、10センチ、5センチと3サイズ群いることから、いずれも震災後の世代で、それぞれ2歳、1歳、当歳の魚だろう。陸上ではようやく高台に家が建ち始めたところで、復興への道のりの険しさを感じるのに対し、海の回復力は力強い。
写真=2013年7月17日、冠島北東のナガシタグリ、水深7メートル付近で見られた、体長30センチほどのウミタナゴ。おそらく本種の最大サイズであり、遠目にはクロダイと見まがう。
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