春の若狭湾では、小さなクラゲが大量に現れることがある。クラゲには天敵がいて、その代表はカワハギなどの魚である。ところがこれらの魚は水温が低い時季には餌をあまり食べない。そこでクラゲの立場からすると、魚に食べられにくい春先に稚クラゲをまとめて放出するのが得策ということになる。
クラゲのとる第二の戦略は、とにかく一斉に稚クラゲを放出する、というものだ。通常、新月や満月の大潮にあわせている。大潮の日は海水の動きが大きいため、稚クラゲは潮の流れに乗って広い範囲へ運ばれる。また、一度に多量のクラゲが現れれば、たとえ捕食者がいても食べ切れないため、一部は生き残る、というのが彼らの作戦だ。
一方、近年は寒暖の変化が急であり、これは海の中についても言えることだ。水が急に暖かくなれば、魚たちの食欲も増す。それでは、どれくらいの水温になると魚たちはクラゲを食べるのか? これを調べているのが、名城大学から京大水産実験所に来て実験をしている近藤桜さんである。3月から滞在し、クラゲを集めてはカワハギに食べさせて観察している。
春の舞鶴湾に多いのは、例年はミズクラゲの子供である。ところが今年多く現れたクラゲは見慣れない形をしており、手元のクラゲ図鑑にも出ていない。こんなときはクラゲ分類の大家である久保田信先生に写真を送って教えを乞うと、たちどころに答えが返ってくる.「キタヒラクラゲですね」とのこと。大きなクラゲの子というわけではなく、大人になっても1センチに満たない種類なのだそうだ。
近藤さんによれば、このクラゲを水槽中のカワハギに与えたところ、ためらわずに食べたという。それでは大量の小さなクラゲは、海の中でも魚たちの餌となっているのだろうか? 遅咲きの桜の花弁も静かに浮かぶ海の底、クラゲと魚のしのぎの削り合いは続く。
写真=2014年4月8日、舞鶴市長浜の水深20センチ付近にて高密度で見られたキタヒラクラゲ。傘の直径は1センチ弱
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