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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩147
−クロシタナミウミウシ− 嫌われる味、彼らの戦略

 クロシタナミウミウシは、陽当たりの良い岩場に生息するウミウシの一種だ。表面のざらざらや黒さ加減は、イカ墨スパゲッティーを食べた後の舌を彷彿させる。周囲は波打ち、黄色あるいは赤でふちどられる。写真で右側に2本あるのは触覚で、こちらが前、後方のふさふさした部分は水中で呼吸するための鰓(えら)だ。
 ウミウシは、広い分類群では、貝類と同じ軟体動物である。たとえばサザエも水中で活動する際は、似たような触覚を出す。サザエの場合、敵に出会った場合は殻に引っ込めばよいが、ウミウシには殻がない。そこで、体内に毒を蓄え、捕食者に嫌われる味になる、というのが彼らの戦略だ。
 この写真を筆者のフェイスブックのページに掲載したところ、ゼミの元教え子である篠原君から、「アカククリみたいですね」とのコメントをもらった。他のゼミ生から「さかなクン」と呼ばれていただけあって、相当に魚マニアというか、魚目線な意見である。アカククリの幼魚は確かに、このウミウシと同様に平たく、黒く、周囲は赤く、幼魚期の形状がそのまま「赤括り」と魚名になっている。この魚を展示する沖縄の水族館では「毒を持つウミウシやヒラムシの擬態」と説明されていた。
 生物の擬態では一般に、モデルとなる者よりも模倣する側の数が少ない。もしアカククリがたくさんいて、しかも美味であったら、捕食者は多少のリスクを冒してでもこの模様の生物を食べるようになる。その結果、有毒なウミウシまで食べられてしまい、モデルと模倣者と捕食者の三者共倒れが生じるであろう。海の中では、ときには生き物同士がだましあいを繰り広げながら、全体としてはバランスが保たれているのだ。
写真=2014年5月15日、高浜町音海の水深4メートルで見られたクロシタナミウミウシ。体長6センチほど
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