キヌバリは、ホンダワラ類の海藻が茂る海でごく普通に見られるハゼの仲間だ。ピンクがかった肌色に、黄色い縁取りの黒い縞模様がある。たとえばオニオコゼを家へ連れて帰って、「どうだ、かわいいだろう」と言っても心からの同意は得られにくいが、このキヌバリならば、一般的基準からしても愛嬌のある部類に入るだろう。ただし、味はあまりよくないらしい。
厳冬の舞鶴湾内。かろうじて目で追えるサイズの小さな魚が群れを作って泳いでいるのに驚く。「いったい何の仔魚だろう」と最初は思うが、日をおいて潜るごとに成長し、春先にはどうやらキヌバリの仔魚だったということがわかる。同じ場所で続けて潜る愉しみの一つだ。6月の和田浜。ヒラメ稚魚の放流後の追跡調査中、海藻林に目をやると、5センチくらいのキヌバリが数匹出たり入ったりして、小さな動物プランクトンをぱくぱくと食べている。6月末の三方。福井県立大のシュノーケリング講習の合間に、キヌバリの接写に成功(写真)。7月以降、小橋あたりの岩場を覗けば、岩に囲まれた砂地になわばりを構えた10センチ近いキヌバリをじっくりと観察できる。
キヌバリは日本にしかいない上、太平洋側と日本海側で少し色彩が異なる。体の側面の縞が、太平洋側では6本のところ、日本海側のキヌバリには7本ある。写真の魚のしっぽの付け根に見える線が、その7本目のラインだ。魚類の分類の研究者は、こうしたいわば自然界の間違い探しみたいなことをやって生計を立てている。「どうでもええやん」と言われるかもしれないが、歴史を越えて残ってきたものであれば、やはり大切にしてゆきたいというのが心情だ。「海藻の生えたところならどこにでもいる」とは言うが、逆に言えば、海藻のないところでは生きてゆけない魚でもあることを心に留めておきたい。
写真=若狭三方マリンパーク(福井県三方町世久見)の水深1.5メートルで観察されたキヌバリ。体長8センチ
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