毎年11月6日は、山陰から越前にかけてのカニ漁の解禁日である。この時季になると、「今年のカニはどうなん?」と尋ねられることもあるが、あいにく筆者の潜る浅い海では、皆様の冬のお楽しみである松葉ガニ(正式にはズワイガニ)を見ることはなく、「豊漁だといいですね」と答えるしかない。ともあれ、挨拶代わりにカニが話題にのぼるのは、素敵な文化だと思う。
沖合の水深200メートルから採取されるズワイガニほど高級感はないものの、浅い海にも十分に美味なカニはいる。写真のタイワンガザミの雄は鮮やかな青色をしていて、舞鶴の鮮魚店では「青ばさみ」の名で売られる。雌は茶色で、「ワタリガニ」あるいは「ガザミ」とされている。
このカニのはさみは強靭で、アサリなど殻ごとかち割って食べてしまう。また、末尾の足はオールの形をしており、泳ぎもそこそこにできる。「渡りガニ」たる由縁だ。
雄は繁殖期になると、雌をガードした状態で活動する。この日は2組のカップルがいて、しかも雄同士は、雌を抱えたまま、はさみを使って喧嘩をしている。交尾相手を確保した雄同士が争う必然性は、筆者には理解しがたい。この疑問をバディーの高橋研究員にぶつけたところ、「『もっとあっちでやれよ』って言いたかったんじゃないですか」とのこと。そうかもしれない。
ワタリガニの類は、塩ゆで、味噌汁と和風で頂くもよし、パスタやパエリヤにもお勧めの食材だ。個人的にはこのカニを見ると、トマトソースパスタの具にしたくなる。殻つきのカニやエビから味を引き出すには、とにかく強火で焼くのが良いのだが、料理のベースとなるニンニクは高温では焦げる。そこで、ニンニクを利かせたトマトソースをまず鍋で作り、オリーブ油をたぎらせたフライパンでカニを炒めてから白ワインで旨味を抽出し、両者を合わせて煮込むのが、ひと手間かかっても品良く仕上がる。
写真=雌をガードしたまま「青ばさみ」で他の雄と戦うタイワンガザミ。2014年9月12日、舞鶴市長浜の水深8メートルにて
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