バフンウニは、殻の直径が4センチほどにしかならない、緑色をしたウニである。夏場の磯で岩をひっくり返すと、裏側にへばりついていることが多い。冬場には、天敵である磯の魚たちがあまり餌を食べなくなるためか、岩の上に現れる。漢字で書くと、馬糞雲丹となる。濃厚な味のおいしいウニなのに、明らかに名前で損をしている。
写真の個体は、表面に貝殻をつけている。これは、ウニなりにおしゃれしている、というわけではなく、捕食者からの防御あるいはカモフラージュのためであろう。貝殻以外にも、海藻や木の葉などを乗せているものをよく見かける。
ウニの産卵期は種類と地域ごとに決まっている。バフンウニは冬から春、ムラサキウニは夏に産卵し、いずれも発生生物学の実験材料として用いられる。筆者も大学3年生の頃、バフンウニの卵と精子を採取して人工授精し、顕微鏡で観察する実習を受講した。分割を重ねた卵がプランクトンとして泳ぎ出すまでの変化の様子に心躍らせたものだ。顕微鏡下のウニの卵を1日見つめていると、家に帰って風呂につかっても、目をつぶるとウニの卵が並んで見えた。
この実習中、ウニの精子がなかなか採取できないことがあった。同じ実験班の女子には先に学生食堂で夕食を食べてもらい、我々男子が実習室に残ってウニと格闘した。無事ウニの精子がとれたので学食へ行くと、先に食事していた女子が「精子出た?」と聞いてくる.「うん出たよ」と答えたはいいが、生物専攻の学生以外にとっては、公共の場にふさわしくない会話であったようだ。
ウニの食用となる部分は卵巣および精巣である。産卵を迎えるのが春なので、この時期に最もおいしいのかと思えば、産卵期のバフンウニの卵巣には強い苦みがあるそうだ。これもまた、ウニが天敵に食べられないための工夫であろう。
写真=2015年2月12日,高浜町音海内浦湾の水深1メートルの岩の上にいたバフンウニ。殻の直径3・5センチほど。貝殻を表面につけている
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