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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩156
−ミガキボラ− 途中でホラれた!?地味な貝

 ミガキボラは、すり減ったような模様をした薄い灰色の巻貝である。漢字で書くと「磨き法螺」となろうが、磨き上げたというよりは、磨いている途中で投げ出した感がある。漂白すればそれなりに美しい貝殻となるようで、図鑑にはそのような写真が掲載されている。
 基本的に、浅い岩場に生息している。このため、岩場でイセエビなどをからめとる刺網を仕掛けると、この貝がしばしばかかる。筆者も子供の頃、三浦半島の小さな漁港で、漁網の近くに打ち捨てられたミガキボラを拾った記憶がある。漁師さんが捨てるということは、とりたてて美味な貝ではないのだろう。
 海藻を主食とするサザエは別として、磯の巻貝には他の貝類等を襲って捕食する種類が多い。ところがこのミガキボラは腐肉食で、死んだ魚にとりついて食べていたりする。どこまでも地味な貝である。
 若狭湾ではこれまで、特に冬場の瀬崎でこの巻貝が産卵する光景をたびたび目にしてきた。過去の撮影記録をチェックすると、1月には交尾する個体が見られ、3月に産卵している。
 ところが、同じミガキボラでも、気仙沼で潜水中には7月に産卵しているのを見た。3月の瀬崎の海底水温は11℃、7月の気仙沼は17℃ほどである。海の生物の産卵時期は水温で決まることが多いのだが、この場合、季節も水温も随分異なり、その理由はよくわからない。
 大型の巻貝では、卵を卵嚢と呼ばれる袋に入れて海底に産みつける種類が多い。この袋がいわゆるウミホオズキである。乾燥させたものを口にいれて音を鳴らすことができ、とある図鑑の古風な表現を借りれば「婦女子の玩具となる」。
 ミガキボラの卵嚢は、その形から特に、マンジュウホオズキと呼ばれる。巻貝の種類ごとに卵嚢の形は違うため、それぞれに「なんとかホオズキ」と名前がついているようで、日本人が古来から培ってきた海の生き物への関心の強さが窺える。

写真=2015年3月9日、舞鶴市瀬崎の水深11メートルで産卵中のミガキボラ
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