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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩16
−「イシダイ」−
学習能力の高い体長5センチ

「イシダイしまごろう」という本がある。水族館で芸を披露するイシダイと飼育係のおじさん、しまごろうを取り巻く海の環境などについてやさしく書かれた名著だ。作中のしまごろうが例外的に賢いわけではなく、イシダイは比較的簡単に芸を憶える。  そこで舞鶴周辺の海で捕まえたイシダイを飼い慣らして、学習能力について調べてみた。まず針金で輪を作り、その先に餌を置くようにすると、数日で餌を与えなくても輪をくぐるようになる.この輪くぐりの芸を習得するまでの日数を、いろいろな発育段階のイシダイで比較すると、体長1〜2センチではあまり学習せず、かといって10センチ以上でも憶えが悪く、5センチくらいのイシダイは1番学習能力の高いことがわかった。  夏の始めの頃,流れ藻の中を注意深くさぐれば、1センチに満たないイシダイを見つけられる.この頃はまだ、小さな動物プランクトンを食べている。海水浴のシーズンには、岩場や桟橋の下などで、3〜5センチほどのイシダイをしばしば見かける。海藻の隙間にいる小さなエビやカニを無心についばんでいるようだ。彼らも15センチを越えればニッパーのような歯でウニやカニをばりばり割っては食うようになる。  イシダイの生活史に目を向ければ、5センチの頃に学習能力の高まる必然性が見えてくる。沖合にいる間は流れてくるプランクトンをぱくついていればよく、また十分に成長すれば鋭い歯で何でも噛み割ることができる。浮遊生活から沿岸の岩場へと生活環境が大きく変わる時期に、柔軟な学習能力が必要になるのだろう。  個人的には、小学校に上がる前に海水浴場で見かけたイシダイに心魅かれたのが海に興味を持つきっかけであったと思う。小学生の頃は前述の「しまごろう」を夢中になって読んだ。しかし本稿を書くにあたり「しまごろう」を再読してみると、飼育係のおじさんに妙に感情移入してしまうのがうれし哀しい。
写真=小橋の水深50センチで撮影されたイシダイ稚魚。体長3センチ
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