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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩21
−「イシガニ」−
今宵のごちそう握りしめ

夏、京都から臨海実習を受講しに来た学生さんに「舞鶴の人って,冬は何してるんですか?」と尋ねられたことがある。失礼な質問ととれなくもないが、筆者、にんまりと笑って曰く。「カニ食うんだよ」。  子供の頃から、半ば病的にエビとカニが好きだった。「子供ができたら、『えびじ』と『かにじ』って名前にする」と宣言していた頃もあった。家族中のエビフライのしっぽを集めて食う子供は、親戚ではしばしば話のネタにされていたようである。そんな筆者が舞鶴に来てうれしく思ったことは、この地の人々がカニに対して相当な執着を持っていることだ。もちろん、冬場に毎日カニを食う人などそういるものではなかろう。しかし日常の話題として「この週末はカニを食べに行くんだ」といった話が出てくる。もちろん、買ってきて鍋に入れて食うもよし、忘年会で食うもよし。大切なのは、カニを食する善き食文化が息づいているということだ。  さて、写真のイシガニは、カニの中ではジャンクな部類に入るかと思う。舞鶴周辺の防波堤で、市販の蟹カゴに魚のアラを入れておけば簡単に採れる。湯がいて食べてもなかなか旨いが、たたき割ってみそ汁に入れると大変に良いだしがでる。  この写真を撮影したときは、海の生物たちの生態を昼と夜とで比較する調査をしていた。昼間たくさんいた魚たちは夕方になるとぽつぽつと減り、たいていの魚は隠れて寝てしまう。そして夜陰に乗じてエビやカニがはい出てくる。撮影したのは日没直後の夜6時台。イシガニ君は果敢にハサミで威嚇しながらも、今宵のごちそうである小さな貝をしっかりと握りしめている。撮影しながらもなんだか、蟹からおむすびをだましとった「猿蟹合戦」の猿になった気分を味わい、妙に気が引けた。
写真=高浜町音海の水深3メートルで撮影されたイシガニ。握りしめているのはムラサキイガイ
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