夏、大浦半島あたりでシュノーケリングをしていて、体長2センチくらいの空色の魚に出遭って驚かれた方もいるのではなかろうか。夏場の若狭湾は水温が高く、対馬暖流に乗ってきた南方系の魚たちがダイバーの目を楽しませてくれる。しかし秋から冬にかけて水温が下がると死んでしまう,そんな死滅回遊魚の例として、以前「ミノカサゴ」を紹介した。
読者の方の中には,「この寒い時期に夏の魚を扱うとは、連載2年目が終わらぬうちに旬のネタも尽きてきたか」と見られる向きもおられるかと思う。ご心配なく。このソラスズメ,撮影したのはつい先日の二月の上旬,場所は高浜町音海である。通常、日本海の冬は越せないはずの熱帯魚のソラスズメが、真冬の若狭湾で元気に暮らしている、という不思議な話が今月のネタだ。
昨年の秋に音海で集中的に潜った際に、当地には南方系の魚が非常に多いことが気になっていた。高浜原電の温排水の影響で南方の魚が多く留まっているのは容易に想像できる。では彼らが冬を越せているかどうか確かめてみよう、ということでこの冬、音海で潜っている。同じ時期、舞鶴湾内の長浜や湾口の瀬崎は寒々としているのに、音海は2月でもまだ秋口のようだ。水温も、長浜や舞鶴湾口の瀬崎より2〜3度高い。この2〜3度が実は熱帯魚にはとても重要だ。通常彼らは水温が12度以下になると寒くて死んでしまう。現在、長浜と瀬崎は10度、音海は13度ある。
温排水で局所的に生態系が変わることは珍しくはないし、電気が我々の生活に不可欠であることも事実だ。しかし、若狭湾にこれだけ沢山の発電所があり、それぞれが温排水を出し続けていても大丈夫なのだろうか。究極のシナリオとして、南方から来るとされるあのエチゼンクラゲが若狭湾内で増え始める、なんてことにはならないだろうか。水中散歩を楽しみながらも、そんな不安がよぎることがある。
写真=体長約3センチのソラスズメ。高浜町音海、水深4メートル
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