新緑の美しい季節となった。今の時期には海の中でもまた、さまざまな色の海藻が繁茂し始めている。水中の世界は季節の訪れが遅いように思いがちだが、こと若狭湾で潜っている限り、海の中の季節変化は陸上と巧みに歩調を合わせている感がある。うっそうと茂るワカメの林は稚魚たちの憩いの場となり、葉は貝やウニの餌となり、それらはまた魚の餌となって、海の中の食物連鎖が成り立っている。
昨年の今頃、お世話になっているテニスクラブのオーナーの寺内先生のお宅に呼ばれて、ワカメのしゃぶしゃぶをごちそうになった。東京や大阪で暮らしていると、ワカメは深緑色をした乾燥か、せいぜい塩蔵のものしか手に入らない。ワカメはしかし褐藻類と呼ばれるだけあって、生きているときは茶色をしている。舞鶴のスーパーには、当地で採れたそんな生ワカメが普通に並ぶのがうれしい。昆布だしの鍋の湯をくぐらせたワカメは、瞬時に見事なエメラルドグリーンに変わる。
これまでの人生で、正直なところワカメとは、磯野家の同名の少女と同じく、脇役に徹した存在と思っていた。しかし、ポン酢で頂くワカメの風味食感は、素朴ながら鍋の中の堂々たる主役である。
ワカメが一番よく育つのは、水がきれいで、適度な栄養分のある海だ。北海道や東北の一部でワカメやコンブの生えない磯焼け現象が問題になっている。「ウニが新芽を食べるからだ」と言われたこともあったが、ぐんぐん伸びる春のワカメは、ウニが食べきれる量ではない。最も確からしいのは、木を伐採しすぎたからであろう、とする説だ。森の環境が悪くなると、陸上からの栄養供給が一定でなくなり、ワカメの成長に不可欠な鉄分等が不足する。土砂が流入しやすくなり、海藻の新芽が発芽しにくくなる。森の豊かさあってこその、海の豊かさと言える。陸上の森と海の森は、そんな不思議な縁でつながっていることにも、新緑を眺めつつ思いを馳せてほしい。
写真=宮津市越浜(おっぱま)の水深2メートルで撮影したワカメ
|