アカアマダイは若狭ではグジとも称され、京料理には欠かせない素材だ。舞鶴周辺では冠島沖の水深90メートルあたりが好漁場らしい。「アマダイは穴を掘って住んどるさかいに、そこから『ぼっこ釣り』で引き揚げるんや」と漁師さんは教えてくれる。しかし、実際にアマダイが穴を掘っている様子を見てきた人がいるわけではなく、そもそも水深90メートルとは、潜って見てくるにはちとしんどい。
日本栽培漁業協会(日栽協)の宮津事業場では、アカアマダイの人工孵化稚魚の生産に成功した。そこで、栽培漁業に必要な行動や生態の基礎知見を得るため、本種の行動特性に関する研究を、日栽協と筆者との共同で進めている。昨年行った室内実験では、アマダイは体長7センチ以上になるとトンネル型の巣穴を掘ることが確認された。
ビデオで録画してみると,アマダイは泥を口でくわえて、少し離れたところでほっと吐き出して穴を掘る。そして今年の6月、宮津湾内の泥場で放流したところ、室内実験で掘ったのと同じように見事なトンネル型の巣穴を掘った。
ご覧の写真は、昨年(2001年)の6月に伊根町で放流した直後のもの。大きな瞳と秀でた額は、本種の勝ち気な性質を伝えている、とみるのはやや擬人的に過ぎるだろうか。暗い海底でもよく物が見えるように眼が大きくなり、そして泥をくわえやすいようにアゴが発達したのかもしれない。自分が掘った巣穴に他の魚が近づくと追い払うといった強いなわばり性を示す一方で、お互いの巣穴はわりと近所に掘るような社交性も見せる。魚類心理学の研究対象として、飽きることのない素材だ。
写真= 体長12センチのアカアマダイ放流稚魚。撮影地は伊根町カルビ浜、水深2メートル
|