小学生時代、よく竹の子を掘りに行った。立派な竹の子を掘り出したときには達成感がある。しかし子供のことゆえ、ごく小さな竹の子を掘ってきてしまうこともある。そんな親指の先ほどの竹の子を見て近所のおばさんが、「うちの息子のチ○○みたい」と言うのを聞き、子供ながらにショックを受けたことを懐かしく思い出す。鰹だしで竹の子とワカメとを炊いた料理を「若竹煮」と呼ぶことを、自分が料理をするようになってから知った。
さて、タケノコメバルという魚は、竹の子の育つ時期によく釣れるのでそう呼ぶらしい。またその姿形も、皮をかぶったままの竹の子に似ている。実際、筆者が潜水観察を行っている舞鶴湾でも、実に律儀に水産実験所前の同じ場所に毎年4月に現れて、夏以降に見ることはない。どちらかというと冷たい海の魚で、自分の気に入った水温のところを選んで回遊しているのだろう。
本種は煮付けにしておいしい魚である。どんな魚でもそれなりに仕上がる煮付けの方法として、水はまったく使わずに、酒とみりんと醤油を4d1d1で煮立て、魚を放り込んで強火で落とし蓋、というのをよくやる。こうすると、酒の肴に合う濃い味の煮魚ができる。しかし先日この魚を入手した際は,某国営放送の健康番組で紹介していた方法を参考に、生の状態でいったん湯通ししてから、さっと薄味に煮付けてみた。魚自体をじっくり味わう、大人の味に仕上がった。
タケノコメバルは、日本海に本来いるべき魚の代表格だと思う。「日本海の魚は地味ですね」と言われたら、「いぶし銀の魅力だよ」と胸を張りたい。温暖化の影響で南方系の魚が増えてくると、見た目は楽しいかもしれないが、環境問題としては決して良いことではない。繁茂する海藻に逃げ隠れするタケノコメバルを見ると、そんなわけでほっとするのである。
写真=体長17センチほどのタケノコメバル。長浜の水産実験所前、水深4メートルで撮影
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