最近、マアジが豊漁である。1980年代、あれほど沢山いたマイワシは90年代に入ると忽然と姿を消し、マサバがその地位を取って替わった。そしてここ数年はサバも少なくなり、アジばかりが多い。こうした現象を水産の世界では魚種交替と呼んでいる。なぜ魚たちがそのような交替劇を演じるのかは、魚に聞いてみないとわからないが、そこのところを魚に尋ねてみるのもまた、魚類心理学者の仕事である。
ここで筆者が注目しているのはクラゲの存在だ。最近、クラゲも妙に多い。クラゲは色々な魚の仔魚を食う一方で、クラゲを食う魚もいる。その代表格が、マアジとカワハギである。だから、クラゲが増えたから、他の魚が減ってアジとカワハギが増えたのではないか、との仮説を立ててみた。
そこで今年は、マアジを我が水産実験所で孵化から飼育し、いろんな行動を調べている。遊泳速度を測ったり、昼と夜の行動を観察したり、そしてクラゲとも対決させている。アジは危険が迫ったときの逃げ足がすこぶる速く、そしてクラゲにも食われにくい。ただし、アジの稚魚は、夜、水面付近で眠る。魚が寝る、というと変に思われるかもしれないが、寝ているアジの子は手ですくえる。そして、寝ている間はアジもクラゲに食われる。
さて、冠島沖で釣った大アジを親に産まれたアジの子たちは、1カ月半で2.5ミリから3センチまでに成長した。実験の終わった魚たちは、舞鶴湾に放してやろうと思っている。生まれたときから俺の顔を見て育ったアジたちは、海の中で出会ったら、俺について泳いでくれるだろうか、などとあらぬ想像をしてしまうこの頃である。
中をいじくりまわされれば、メバルたちは途方に暮れるにちがいない。
写真= マアジの群れ。撮影地は小橋・アンジャ島と呼ばれる半島の東側、水深4メートル
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