キュウセンはベラの一種で、ピンクがかった白い体にくっきりと9本ばかりの線が走っているので、この名がある。こうした模様を持つのはしかし雌だけで、雄になると体全体が鮮やかな緑色となる。
ベラの仲間では、キュウセンは高級魚とされている。とくに瀬戸内出身の人に聞くと、「塩焼きをポン酢で食べるのは最高」とのことだ。舞鶴市内のスーパーでは、とても安くで売られている。食べてみると、なるほど独特の磯の風味がある。
冒頭で「雄になると」と書いた通り、キュウセンを含めてベラの類はたいてい、雌から雄へと性転換する。雌として成熟して卵を産んだあと、しばらくすると卵巣の間に精巣ができてきて、体の模様も変わり、やがて雄として機能するのだ。一生のうちに二つの性を楽しんでいる、といえよう。魚とは随分と不可解なことをするものだ、と多くの方はお感じであろう。しかし人間でも「体の性と心の性が違う」と悩んだ末に性転換手術をする人もいるし、また最近では、我が国の都市部の男性は色々な点で「男性らしさが減っている」とのデータもある。人間の「男らしさ・女らしさ」の大部分は、ホルモンのレベルで決まってくる。魚の場合も同様だ。しかも魚は形や行動が単純であるため、性について研究するには良い材料といえる。魚から学ぶことはまだまだありそうだ。
魚が好きで観察していて、何かを発見する。それが人間についても応用できるようなことであれば、楽しいし、やりがいもある。そんな「魚を学び魚に学ぶ」ことに興味を持たれた方は、魚類心理学の入門書である筆者の処女作『魚の心をさぐる』(成山堂書店)を御一読されたい。
写真=キュウセンの雌、体長約17センチ。舞鶴市小橋の水深1・5メートルにて
|