海の中で、素敵な貝殻を見つけた、と思ったら、ヤドカリに占拠されていることがよくある。ヤドカリはエビやカニの仲間だが、しっぽの部分は柔らかく、巻き貝を背負って暮らしている。成長して殻が窮屈になると、少し大きい殻を求めて移り住む。自分にあった殻のサイズは、はさみで測りながら決めるのだそうだ。
日本各地の海で潜っていて、写真のようにサザエの殻に入ったヤドカリをしばしば見かける。これは、日本の海にはサザエがたくさんいるから、ということよりはむしろ、海辺でつぼ焼きにされたサザエの殻がよく捨てられているからなのかもしれない。
この夏、学生らとバーベキューをしていて、ヤドカリの話題になった。ある学生が主張するのは、「ヤドカリの殻は、防寒のためにあるんです」とのこと。なんでも彼は子供の頃、家でヤドカリを飼っていて、風呂に連れて入ったら、ヤドカリは殻を脱ぎ捨ててそのまま殻に戻らなかったのだそうだ。殻を脱いで風呂に入る几帳面なヤドカリを想像すると、かなり漫画チックだ。
彼の説を否定する観察例が筆者にはある。これまたバーベキューの折、サザエのつぼ焼きをしているのに、サザエの殻に入ったヤドカリをまぜておくことがある。この場合、ヤドカリは熱くて殻から出てきそうなのに、おとなしくサザエとともに焼かれてしまった。つまり、熱い寒いは殻とは関係なさそうだ、というのが筆者の説である。さて、ヤドカリのつぼ焼きを、サザエと同じ要領で引き出して食べてみると、はさみの部分には結構身があり、またしっぽの部分はちょっとクセのあるカニミソのようだった。エビ・カニ大好き人間の筆者としても、まあ許せる味だった。食料難になったときに食べられるものが、また1つ増えた。
写真=音海の水深8メートルで見つけたベニホンヤドカリ。つぼ焼きサイズのサザエの殻に入っていた、大型のヤドカリだ。
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