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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩57
−「ハリセンボン」− 不敵な表情、イノシシ似

 ハリセンボンはフグの仲間の魚である。敵に襲われると、水を飲み込んでまんまるにふくらみ、全身のとげを立てるため、ハリセンボンを飲み込んだ魚はびっくりして吐き出すこともあろう。歯も丈夫で、貝などをばりばりと割って食べてしまう力を持っており、うかつにつかんで指などかまれたら大変だ。  沖縄ではハリセンボンの類は「アバサー汁」と呼ばれる料理の材料として珍重される。筆者も、キャンプ中に捕獲したハリセンボンをさばいて味噌汁にしたことがある。とげに被われた皮を苦労してはいだその身と骨からは、濃厚なダシが出て旨かったのを記憶している。  ハリセンボンの身をとりのぞき、膨らませて乾燥させたちょうちんは、魔よけとして玄関に飾られる。沖縄ではネズミ返しにも利用されていたことを、石垣島の民俗資料館の展示で知った。ハリセンボンのトゲは、死んで乾燥させたものでも、さわると結構痛い。  本来暖かい海にすむ魚のハリセンボンが、夏から秋にかけて、対馬暖流にのって若狭湾沿岸にも運ばれてくる。通常、これらは冬を越せずに死んでしまう。何年か前、「海岸にハリセンボンが何匹も打ち上げられているけれど、天変地異の前触れではないか」と電話で相談を受けたことがある。ハリセンボンの漂着は、実は日本書紀にも記録があって、どうやら1500年も前から海辺の人々の興味をひいていたことらしい。  日本書紀ではちなみにこの魚を「雀魚」と表記している。砂浜に打ち上げられたハリセンボンは、なるほど、冬の嵐で命を落とした哀れな雀(スズメ)に通じるものがある。しかし、水中で出会うハリセンボンは、「食えるもんなら食ってみろ」とでも言わんばかりの不敵な表情をしており、スズメというよりはむしろ、イノシシに似ている。そんなわけで、多分にとってつけたようではあるが、猪年の来年も、前進あるのみの水中散歩を、どうぞよろしく。
写真=冬の音海の水深1メートルで見つけた体長16センチのハリセンボン
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