メジナは、釣り人の間では「グレ」の名で、また舞鶴のスーパーでは「ツカヤ」として親しまれている。海水浴場に近い岩場はもちろん、防波堤沿いを上からのぞきこんでも、ごく普通に見かける魚だ。紫外線の強い浅い海で暮らすための適応か、全身が青黒い色をしている。
学生の頃、下宿に水槽を置いて魚を飼おうと思い、最初にすくってきたのがこのメジナの稚魚だった。メジナだけを水槽に入れておく分には愛嬌もあるが、別の種類の魚を一緒に飼うと、メジナたちは徒党を組んで他の魚を襲撃する。「グレる、とはグレのようにふるまうことからきているのだろうか」と思ったほどだ。
メジナはまた、学生時代、海に潜ってよくヤスで突いてきた魚でもある。簡単に突けるが、あまりおいしい魚ではないように思っていた。
しかし、自分のメジナ観は、舞鶴に来てから変わった。まず、スーパーで売られているメジナの刺身が、かなり美味である。メジナは通常、夏は磯の雑多な生物を食べるので臭みが強く、冬場はもっぱら海藻を食べるので香りが良くなる、という。若狭湾のメジナは、よほどおいしい海藻を食べているに違いない。冬場は脂がのって特に美味である。
さらに衝撃的に旨いのが、メジナの昆布じめである。以前、福井県立大の青海忠久師匠宅でこの料理をごちそうになって魅了され、その後,自分でも作ってみた。皮をひいたメジナのさくに軽く塩をふり、酒でしめらせた昆布でくるんで冷蔵庫に置く。数時間後にうすくそぎ、舞鶴産カブの甘酢漬けでも添えれば、高級料亭風な1品のできあがりである。グローバル化によって世界中に同じようなものがあふれている昨今、「この時季にこの場所でこそ」と胸を張れる、いわば一期一会な食の文化を大切にしてゆきたいものだ。
写真=体長10センチ前後のメジナの群れ。三方町の福井県海浜自然センター前、水深2.5メートルにて
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