スズキは、成長するにつれてセイゴ、フッコ、スズキと名前を変える、いわゆる出世魚だ。海の沖の方よりはむしろ岸近く、それも河口付近に多く、しばしば川の中にも入ってくる。
春先に由良川の河口で網を曳くと、生まれて1カ月ほどのスズキの稚魚がたくさんとれる。河口には流れてきた餌も多いのだろう、そこですくすく成長し、岩場やテトラポッドを隠れ家としながら、小さい頃はエビなどを、大きくなってからはもっぱら他の魚を食べて成長する。ブリやサバのように積極的に小魚を追いかけるというよりはむしろ、物陰で待ち伏せて、通りがかった魚に食いつく習性が強い。
若狭湾にスズキは多いが、水中で出会うことはまれである。これまで何百回と若狭湾で潜ってきて、スズキを見たのは、写真の稚魚に1回と、80センチほどの大物に2回だけである。いわゆる大物は、水中では黒々としていて、餌となる小魚を岩陰で待ち伏せしている風だった。どういうわけか、スーパーでよく売られている30センチそこそこのスズキには、水中では1度もお目にかかったことがない。その理由は、スズキの気持ちになってみればよくわかる。岸近くに住む彼らにとって、本来の天敵はアザラシやトドなどの海獣類だろう。水中をノソノソと泳ぐ筆者は、スズキからすればちょうどそんな姿格好に見えるに違いない。だから30センチのスズキは、筆者の気配を察するやいなや逃げ去るのであろう。
さて、「天敵」である筆者がスーパーで食べ頃のスズキを見つけた場合、丸ごとオーブン焼きにすることが多い。タマネギの輪切りを敷いた上に、内臓をとってハーブを詰め、塩コショウしたスズキを置き、オリーブオイルと白ワインをかけてオーブンで焼く。こんな食べ方をしているから、スズキが逃げていくのかもしれない。
写真=長浜の水面直下で見つけた体長5センチのスズキの稚魚の群れ。うれしくてどこまでも追いかけてしまった
|