ミノカサゴは、目鼻立ちからも見てとれる通り熱帯の海の魚である。対馬暖流に運ばれて、初夏から秋にかけて若狭湾にもやってくる。冬の寒さを越せずに死んでしまうこうした南の海からの偶来者を一般に、「死滅回遊魚」と少し哀しい名で呼んでいる。
水産実験所では、2年ほど前に捕まえたミノカサゴが元気に生きている。もちろん、冬は暖房完備の水槽だ.機嫌の良いときは、筆者が仕込んだ一発芸、「あっち向いてホイ」も披露してくれる。実験所を訪れる学生や見学者の間では人気者で、臨海実習に来た京大3回生の大坪さんは、「こんなジュディ・オングめいた魚は初めて見た」と評していた。優雅な魚ではあるが、背びれのとげには猛毒がある。
ミノカサゴは基本的に活きた餌しか食べない。それでは動きの遅いこの魚が、どうやって餌を捕らえるのか。見学に来た小学生にクイズとして出してみると、「毒とげで刺す」と返ってくる。「毒とげはね、敵に食われにくいための武器なんだ。自分で餌を捕らえるときは、胸びれを手みたいに広げて、水槽のかどに追い込んでひと飲みにして食べるんだよ」と説明してやる。すると利発な舞鶴の小学生は、「海の中に、かどはあるの?」と突っ込んでくる。一瞬たじろぎながらも、「ミノカサゴは、岩陰によくいるんだ。だから、そこにうまいこと魚やエビを追い込むんだと思うよ」というのが筆者の説明。見学に来た小学生とのやりとりからも、魚の生態について改めて考えさせられることは多い。
写真=宮津市越浜の水深7メートルの岩陰にいた体長20センチのミノカサゴ
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