ナベカは磯のごく浅いところにすむ小魚だ。岩や貝殻の間をちょこまかと動き回り、とても愛嬌がある。頭部は黒っぽく、体の後半は山吹色に小さな水玉模様があるのが普通だが、まれに全身が黒地でコバルトブルーの水玉を散らした模様のものも見かける。いずれも、とてもおしゃれだ。若狭湾のちょっと綺麗な岩場なら、水中マスクをつけて探せば、カキの殻やフジツボの間を妖精のごとく飛び回るその姿が観察できるであろう。水深1メートル以内の浅いところを注意深く見てまわるのが、この魚を見つけるコツだ。水産実験所のある長浜には、水の温かくなり始める5月に現れ、年末頃まで見られる。
『森は海の恋人』で有名な畠山重篤さんの最近の著書、『牡蠣礼賛』では、ナベカの魅力について1ページ以上を割いて熱く語られている。極めつけは、「丸い目玉をクリックリッと動かす様は、『ローマの休日』のヘップバーンを連想させる」のだそうだ。毎夏必ず顔をあわせていて、愛嬌のある存在とは思っていたこの魚、確かに可憐ではあるが、「ローマの休日」にはとうてい結びつかなかった。
畠山氏によれば、海の状態がおかしくなると、ナベカのような小動物がいなくなってしまうという。磯に雑多な生き物がいてこそ、海の生産性は保たれるわけだし、ナベカはそんな海の豊かさの象徴とも言える。
幸い、舞鶴の海のナベカは健在だ。このあたりで手軽に海で遊べる場所としては、大浦半島の小橋や野原が人気のようだ。小橋の竜宮浜には「ととのいえ」なる施設が完成し、ダイビングやシュノーケリングを気軽に楽しめるように、漁協の方々が企画されていると聞く。夏の予定として、「竜宮浜の休日」を磯の妖精と過ごすのも素敵ではないか。
写真=小橋の水深50センチで見つけたナベカ。体長5センチほど
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