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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩65
−「ヒメジ」− 海の中で眺めて愛でる

 夏場の若狭湾の砂浜でシュノーケリングをした際に、まっさきに目につく魚の1つが、このヒメジだ。海底で絶えず餌をさぐる仕草が愛らしい。よく見ていると、ときどき底から飛び上がるように泳ぐ。これは、餌のヨコエビなどが砂の中から追い出されて、それを追いかけるためにヒメジも泳ぎ上がっているのだろう。  ヒメジの大群というのを見たためしはなく、たいてい単独か、少数の群れでいる。単独でいるものよりも、複数でいるものの方が大胆になり、観察者が近づいても逃げにくいようだ。写真のヒメジにも相当接近して撮影しており、「ヘンなのが近づいてきたからそろそろ逃げようか」と相談しているかに見える。  ヒメジの口の下にはヒゲがあって、これで餌の味がわかるのだそうだ。このヒゲからきた英名がgoatfishすなわちヤギ魚である。ちなみにハワイでは、砂浜からの投げ釣りで簡単に釣れるヒメジの類の稚魚をオアマと呼んでおり、当地の皆さんはフライにして食べていた。かつてハワイ市民だった筆者も、夕暮れのオアマ釣りに参加したものだ。良く言えば、独特の風味がある。もっとも日本に戻ってからは、おいしい魚が他に沢山いるので、あえてヒメジを食べようとは思わない。  砂浜で無防備に餌を食べているため、この魚を捕まえるのは簡単だ。ただし、持ち帰って水槽に入れても、案外見栄えがしない。小さいうちはまだしも、大きくなれば砂をひっかき回すうえ、意外に神経質な魚だ。食べるにも飼うにも、もうひとつ不向き。やはり海の中で眺めるのに適した魚だと思う。
写真=宮津市島陰の水深1メートルで見つけた体長4センチほどのヒメジ。餌をさぐる仕草は水面から見てもわかるが、やはり横から観察していて目が合うとうれしい。
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