若狭湾では、9月に入ると底曳き網漁業が解禁となるため、鮮魚店にカレイが出回る。いろんな種類のカレイが並ぶのを見て思わず、「カレイなる一族」とつぶやいてから、魚の鮮度と裏腹な駄洒落のセンスの古さに後悔する。
カレイやヒラメの類は、生まれたときは眼が両側にあるのに、だんだんと片側へ移動して、最後は眼の寄った状態で海底生活に入る、ということは以前にも書いた。眼が両側にある時期は海中を漂うプランクトンの生活をしているので、浮遊期と呼んでいる。この浮遊期は、多くのヒラメやカレイの類では1センチから2センチに達すると終わる。ところがこの写真のヤリガレイをふくむダルマガレイ科の魚では、6センチを越えるまで浮遊期を過ごすものがある。
単に浮遊期が長いだけでなく、その姿形も独特だ。背びれの突起が体長を越える長さにまで伸びており、腸はエラの下から飛び出して胸びれのようにひらひらしている。どうしてこんな奇妙な形になったのか、という疑問に対して、魚類学の先生から「浮遊適応」と説明された記憶がある。突起やひらひらがあれば水の抵抗が大きくなるため、漂う生活には適しているとのことだ。しかし生きたヤリガレイの仔魚を水中で見てきた筆者の意見は少し違う。
この日は、エチゼンクラゲに寄りつくマアジを観察するため、4時間以上も冠島周辺で潜っていた。透明度30メートルの海で、雑多な種類のクラゲ類が流れてくるのを注意深く見ていて、たまたま見つけたのが写真の魚だ。もし最初から魚の姿を探していたら、クラゲたちの中に見落としていたに違いない。ブリやシイラのような捕食者から見て、栄養価が低く毒もあるクラゲに似せることにより、捕食を免れているのではないか。すなわち、クラゲへの擬態ではないか。想像力の海に漂いながら、自然のもたらす造形美としたたかさに、ため息の出るひとときであった。
写真=冠島の宮前沖、水深2メートルで見つけたヤリガレイの仔魚。体長6センチ
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