イソギンポは、通常はごく浅い磯にすむためこの名がある。小さなエビやカニの類を食べているそうだ。つんと伸びたトサカがおしゃれで、筆者が最初に指導した学生である慎之介君の、4回生当時のヘアースタイルに似ている。
一般的な魚のイメージは陸に揚げられて横から見た姿であり、なんとなく片方の眼しかないように思いがちだ。しかし、当然ながら魚にも眼が2つあって、特にイソギンポのように海底で餌を待ちかまえるタイプの魚では、餌の位置を両眼でとらえる必要があるためか、両眼で物が見える視野も広くなっている。そんな魚に水中で面と向かうと、特に学生に似ていなくとも、挨拶を交わしてみたくなる。
写真のイソギンポは、舞鶴水産実験所の前に沈めた木製魚礁にいたもので、ここの水深は8メートル、周囲は泥の海底である。通常、この深さの泥底で魚はあまり見かけない。でもここに魚礁を置くと、まずカキなどの付着生物がつく。カキは湾内の過剰なプランクトンをこしとって海水をきれいにしてくれる。透明度が高まれば、光が海底に届くため海藻も成長しやすいだろう。大きくなったカキは、いつしかカニやタコにこじ開けられ、それをめざとく見つけたクロダイなどの魚についばまれる。すると、残った殻はご覧の通りイソギンポのような小魚の格好のすみかとなる。しかし小魚の暮らしもラクではなく、同じ魚礁に落ち着いたカサゴやキジハタや、通りがかりのスズキにいつ食べられるかもしれない。
木製魚礁をこの地に設置してそろそろ4年になる。毎月2回の潜水調査から、スギ間伐材で作った魚礁に一番多くの魚が集まることもわかった。人類が過度に利用してきた沿岸の海は、やはり疲弊していると思う。間伐材魚礁のようなちょっとした手助けで生命の連鎖ができ、沿岸の海が元気になるなら、うれしいことではないか。
写真=舞鶴市長浜、水深8メートルのスギ間伐材の魚礁にいたイソギンポ。体長5センチ
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