ツノガニは、海藻の生えた海に普通にいるカニであるが、あまりに地味な姿から、かえりみられることは少ない。蟹座にして大のカニ好きの筆者でも、このカニに愛着は湧きにくく、食べてみようと思ったこともなかった。
ところが先日、クラゲの大発生に関する研究報告会に参加した折、広島大学の上真一教授がこのカニの驚くべき生態について報告していた。クラゲには一生のある時期、ポリプという形で海底にへばりついて暮らす時期がある。ツノガニは、その小さなはさみでクラゲのポリプをせっせとちぎっては食べてくれるのだそうだ。世界各地で問題になっているクラゲの大発生。それを防ぐために、誰の目にも見えない所でこのカニが働いてくれていたとは。
似たような例として、田んぼの「ただの虫」の話がある。これについては、徳野貞雄氏の『農村(ムラ)の幸せ、都市(マチ)の幸せ』という本で読んだ。田んぼには,良く知られた害虫とその天敵のほかに、何をしているのかわからない「ただの虫」が沢山いる。そんな虫たちとの競争もあり、また天敵もいるため,本来田んぼに害虫が増えすぎることはないはずなのに、農薬を使って虫たちを殺せば、かえって害虫ばかりが増える、という話だ。海の中で起きていることも、同じなのではないか。ツノガニのようなあたりまえの生きものに対して、人類の配慮の欠けてきたことのツケが、クラゲの大発生なのではないか、という気がする。
あたりまえの自然が、幸い舞鶴にはまだ多く残されている。海といわず山といわず、その自然についてもっと知りたいという人たちに格好の本が出版された。題して『舞鶴の守りたい自然』。舞鶴市の生活環境課からお声がかかり、筆者も市民の一人として編集に参加した。知ることすなわち好きになることだと思う。その先、愛すべき自然をどう守ってゆくかは、皆で考えてゆきたい。
写真=舞鶴市長浜の水深8メートル、木製魚礁の支柱にしがみついていた、雌(左手前)と雄(右奥)のツノガニ。体長はそれぞれ4センチと5センチ。擬態が巧みすぎて、目がどこにあるのかもわからない
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