マトウダイは、弓矢のまとのような模様があるためこの名で呼ばれ、漢字では、的鯛と書く。この巨大な目玉模様、何のためにあるのかというと、銛(もり)で突いてもらうためでは決してなく、おそらく巨大な魚かタコの目玉に似せて、敵を威嚇するためにあるのだろう。
マトウダイは、普段は長い背びれは倒して、じっとしているか、ゆっくりと泳いでいる。平べったい魚なので、前後方向から見ると、実に存在感のない魚である。本種はこう見えて、かなりどう猛な魚で、自分が餌を食べるときには気配を消して小魚に近づき、大きな口でひと飲みにしてしまう。そのときには、口が大きく開くだけでなく、口全体が飛び出すようにして魚を捕まえる。そういえば、調査でアジ釣りをしていたときに、釣れたアジを飲み込んだマトウダイを釣り上げた学生がいた。
一方、敵が近づいてきたときには、写真のように背びれと胸びれを拡げて体を大きく見せる。そして体の色を、黒っぽい茶色と白との間をめまぐるしく変化させ、体の中央にある目玉模様をくっきりと浮かび上がらせる。この写真を撮影した小橋はタコの多い場所で、水中で見たマトウダイの模様は、巨大なタコの目玉を思わせた。マトウダイは普通はもう少し深い海に住んでいるので、そんな海にいるハタなどの巨魚の目玉にも見えるだろう。
舞鶴の鮮魚店では、マトウダイはしばしばバトという名で売られている。これは、ウマの頭みたいな顔をしているので、馬頭鯛ということのようだ。三枚におろしてみると、魚の大きさから想像するよりも身が少なく、ちょっとガッカリさせられる。しかしそのガッカリを埋め合わせて余りある、おいしい魚である。モチモチとした身は、刺身でも旨いが、フランス料理では特に高級食材とされる。塩胡椒して小麦粉をはたいてから、フライパンでじっくり焼き、ブランデーとバターで仕上げたムニエルは格別だ。
写真=竜宮浜の「ととのいえ」前、水深8メートルで見つけたマトウダイ。体長25センチ
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