彼岸を過ぎた頃から、若狭湾の海の中は夏の華やかな彩りを徐々に失う。しかしそこに魚がいなくなるわけではなく、いぶし銀の魅力を放つ日本海の魚たちが残されている。その代表格が、このスズメダイである。
スズメダイの仲間の魚には、サンゴ礁にいるような、色あざやかな種類が多い。沖縄の離島でシュノーケリングしていて、枝サンゴの隙間で群れをなす魚について図鑑で調べると、たいてい「なんとかスズメダイ」という名前がついている。また、8月から9月にかけての若狭湾で見られ、場違いにあざやかな青色のソラスズメダイも、この仲間だ。しかし元祖スズメダイは、あくまでも地味である。スズメのように地味な小魚とはいえ、大群でいるとなかなかの景観である。
群れでいるイメージの強い魚ではあるが、初夏には岩陰のなわばりを守る姿もよく見かける。岩の裏側には、つぶつぶの卵が産みつけられていて、のぞきこむダイバーを威嚇してくる様はけなげだ。
大分県の施設で研究していたとき、宿舎の食事では、スズメダイの南蛮漬けがしばしば夕食にのぼった。大分ではこの魚、「オセンコロシ」の名でよく知られる。まかないのおばちゃんによれば、昔、おせんさんというおばあさんがいて、この魚の骨を喉に詰まらせて亡くなったから、この魚をオセンコロシと呼ぶのだそうだ。アジの南蛮にくらべると、やや骨が硬く、気をつけていないと、なるほど、喉に刺さりそうだ。ちなみに福岡では、「アブッテカモ」と呼ぶそうだ。丸ごとあぶって、ばりばり食べるのが良いとのこと。
舞鶴の魚屋さんで、この魚が売られているのを見たことはまだない。他にも旨い魚はいくらでもいるし、そもそも切り身の魚の方が料理も楽だ。でも、柔らかい魚ばかり食べていては、あごも脳も退化する。「アジを狙っていたのに、釣れてしまった」というときは、丸ごと揚げての南蛮漬けに是非挑戦し、滋養豊かな海の幸をかみしめて頂きたい。
写真=体長7センチのスズメダイの群れ。2001年9月、宮津市越浜の水深6メートルにて撮影
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