2002年から過去6年間、毎朝クラゲカウントという調査を行っている。舞鶴湾に面した観測用の桟橋から、離岸距離で3メートル、深さ1メートルの範囲に、どんな種類のクラゲが何匹いるかを記録するという、ものすごく地味な作業である。出張等で不在のときは、学生に頼んでおく。
これまでの観察で一番多く見られたのはミズクラゲ、次がアカクラゲ、そして3番目に多いのが、写真のオワンクラゲだ。ミズクラゲは傘の上に4つの目玉模様があって、しばしば大発生する種類、アカクラゲは初夏に多くて強烈な毒がある。だが、このオワンクラゲにはうっすらとスジがあるだけで、目玉模様もなければ、強烈な毒もなく、どちらかというと控え目な存在のクラゲである。
しかしこのクラゲには、暗闇で自ら光を発するという特技がある。この発光のからくりを解き明かしたのが、本年ノーベル化学賞を受賞された下村脩氏である。オワンクラゲから精製された青色に光るタンパク質は、生きた細胞を観察する医学分野の技術へと応用されている。下村氏の研究は、「クラゲはどうやって光るのか」という、純粋な興味から始まった基礎研究であると思う。基礎研究なくして応用研究はありえない、ということをあらためて考えさせられる。
クラゲたちは、人類はもとより、現生のあらゆる魚類よりもはるかに古い時代から、ほとんど形を変えずに子孫を残してきた。それが、ちょっとしたきっかけで大発生すると、人類の敵と見なされて駆除の対象となる。しかし、大発生の引き金を引いているのは、人類とみてほぼ間違いない。
クラゲを見ていて思うのは、クラゲもまた他の生物と深く関わって生きているということだ。写真のオワンクラゲは、何かの仔魚を捕まえている。小さな魚はクラゲに食べられてしまうが、その魚たちが大きくなると、逆にクラゲを食べる種類も多い。そんな海の中の生物同士の関わり方を知ることは、生産性に富み、人々の憩う豊かな海を守ってゆく上で、重要な1歩になると思う。
写真=舞鶴市長浜の水深3メートルで見つけたオワンクラゲ。傘の中央で、チリメンジャコのように見えるのは、捕食された仔魚。2008年3月に撮影
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