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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩82
−「アイナメ」− 卵を保護するのは必ず雄

 冬の日本海で潜っていて、鮮やかな魚を探すのは困難である。写真のアイナメも、「一体どこに魚がいるの?」と訊ねられてしまうほどに地味な色合いをしている。写真の中で魚を見つけられた方は、この魚が何をしているところか想像していただきたい。  この魚、ただ休んでいるわけではなく、通りがかる餌を待っているのでもない。実は、卵を保護しているのだ。口の前方にある粒々の塊が、アイナメの卵である。卵を保護するのは、必ず雄親と決まっており、雌は卵を産み付けたらどこかへ行ってしまう。それでは、アイナメのお父さんがどのくらい一生懸命卵を守っているかというと、筆者が撮影のためこれ以上近づくと逃げてしまう、という程度である。もっとも、富山湾で活動している大田さんという水中カメラマンによれば、当地のアイナメは卵を守るためにダイバーに突進してくるのだそうだ。アイナメは、北日本に多い魚である。若狭湾はアイナメの分布の南端に近く、小型のアイナメが多いから、振る舞いも控え目なのかもしれない。  東北地方では、アイナメは釣りや料理の対象として大変人気がある。ここ舞鶴でも、たまに「しじゅう」や「あぶらめ」の名で店頭に並ぶ。脂の乗った魚ではあるが、刺身で食してみると、微妙な磯臭さがあるように思う。個人的には、片栗粉をまぶして揚げたものが好きだ。  さて、被写体のアイナメに逃げられたあと、残された卵を観察すると、中には小さな生命が育っているのが見える。そっと触ってみると、卵の表面は意外に硬い。アイナメのお父さんが追い払う対象は、大きな魚(やダイバー)ではなく、鋭い爪を持ったカニなど、卵をつついて食べる生きものなのだろう。  水のぬるみ始める三月、穏やかに晴れた日が続き、海底一面に藻が茂り始めると、オレンジに近い茶色をしたアイナメの稚魚があちらこちらに見られるようになる。そんな季節が待ち遠しいものだ。
写真左=体長20センチのアイナメ。舞鶴市長浜の水深4メートルにて、2004年12月に撮影
写真右=守られていたアイナメの卵。眼が形成されているのがわかる

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