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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩84
−「ミズダコ」− 海洋冒険小説さながらの世界

 週末に丹後半島へドライブに行ったら、土産物屋の軒先に立派なミズダコが干してあった。都会から来た風の若い男はそれを見て連れの女に、「バイオで膨らましたタコちゃうん?」と、意味不明なことを言っていた。そんな若者には、冬の日本海で生きたミズダコに引き合わせてあげたいものだ。  ミズダコはタコの仲間では世界最大の種類とされる。マダコよりも身に水気が多いのでミズダコと呼ばれ、旨みではマダコに劣るという意見があるものの、刺身でいただくとやわらかくておいしい。夏は水深200メートルもの深場にいて、冬だけ浅い沿岸にやってくるそうだ。先日調査でお世話になった舞鶴市田井の定置網でも、ミズダコがあがっていた。筆者が定例潜水を行なっている舞鶴湾の長浜では、12月から3月にかけてときどき見かけるが、いつも穴の中にいる。  この日は珍しく、立派なミズダコが水中の岩の上に乗っているのを見つけた。近づいても、手を触れるまで動こうともしない。どうやら岩に張り付いたアコヤガイを食べているところだったようだ。定規を当ててみると、頭のてっぺんから足先までが約80センチある。正面から近づくと、足を大きく拡げて威嚇してくる(写真)。そのときの足を拡げた長さは、筆者が両腕を拡げた長さである175センチよりも、ちょっとだけ長かった。水中でまともにけんかしたら勝ち目はない。「足の1本くらいつまみ食いしてみようか」などという不謹慎な考えは振り払い、水中マスクをとりあげられる前に、失礼することにした。  タコの類の多くは寿命が1年しかないのに対し、ミズダコは4年ほど生きるし、足を拡げた長さは3メートルを越えるものもいるそうだ。また、サメを襲って食べたという記録もある。人間のひとりくらい、すっぽり包み込んでしまう大きさのミズダコに、水中で出会ってみたくもあるが、からまれるのは遠慮したい。そんな、子供の頃にわくわくしながら読んだ海洋冒険小説さながらの世界が、目の前の海の中には広がっている。
写真=2009年3月、高浜町音海の水深4メートルで出会ったミズダコ
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