ウミウシにもいろんな種類がいる。ホルスタイン牛に似た模様のシロウミウシや、ピカチュウにそっくりのウデフリツノザヤウミウシ、そしてケムンパス(古い?)を彷彿させるキンセンウミウシなど、色彩や形態はさまざまだ。そんな中、ミノウミウシと呼ばれるグループは、蓑(みの)をかぶったような姿が独特である。写真の種類は、うっすらとピンクがかった白色で、また桜のたよりを聞く頃によく見られることから、サクラミノウミウシという名がついている。
筆者が大学3年生の折、神奈川県の三崎の藻場で初めてミノウミウシを見たときは、正直、あまり魅力を感じなかった。海の生物で、当時、心を惹かれたのは、流線型のフォルムが美しい回遊魚か、食べて旨い生き物ばかりだ。もっとも、最近京大の学部生に講義をしたところ、「毒のある生物は美しい」とレポートに書いている男子学生がいた。
ミノウミウシには、クラゲのポリプを食べる習性がある。クラゲには、海底にはりついて生活するポリプの時期があって、そのポリプを食べる代表的な生物がミノウミウシなのだそうだ。広島大学の上真一教授らの研究チームは、エチゼンクラゲのポリプをいろんな生物に与えたところ、このミノウミウシの仲間がさかんにポリプを捕食したと報告している。クラゲのポリプには毒があり、ミノウミウシはその毒を背中の蓑にため込んでいる。蓑は1本ずつ自分で切り離すことができるため、敵に襲われたら毒の入った袋を切り離すことにより身を守る。なんだか妖怪漫画に出てきそうな生き物である。
写真のサクラミノウミウシが、砂地の海底を無防備に歩いているのも、毒を持つからそう簡単には捕食されないためであろう。それにしても、まだ冷たい春先のどこかの海で、蓑を背負ってせっせとポリプを食べ、クラゲの大発生を防いでくれているミノウミウシの姿を思い浮かべると、熱い声援を送りたくなる。
写真=2006年2月、高浜町音海の水深5メートルで見られたサクラミノウミウシ
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